ジョン・レノンを
 また一年が経った。本日十二月九日はジョン・レノンの命日である。それは昨日では、と思う人もあるだろうがアメリカ時間の話がそれであり、日本時間で言えば今日が偉大なロックンローラーの命日となる。
 私は春に、広島から大阪へ越してきた。周りの人がみんな関西弁じゃけえ、うちはもう、どうしたらええか分からんよ――と最初は難儀だったがだんだん慣れて、同じ関西弁でも大阪と和歌山で明らかにちがう。大阪でも奈良よりの御仁と神戸よりの少女では意外なほどちがう。そういうことが分かってきた。エスカレーターでも右に立つ。大阪駅の出口も区別がつく。御堂筋口はあれで、連絡橋口は上のほうので、桜橋口が地味なやつである。あっ、近くにマクドナルドがあります。ほんとです。いや、たぶん。

 私と同じジョン・レノンのファンの高塚は広島にいて、夏の帰省のとき久しぶりに彼と私は会った。ちょうどその夏公開された『エイト・デイズ・ア・ウィーク』というビートルズのドキュメンタリー映画を見に行くことに決め、私たちは待ち合わせるのだった。

 「よう」
 「おお、久しぶり」
 私は彼の車に乗り込んだ。毎日乗っているらしく、最近免許を取ったばかりの私とは雲泥の差である。上手い。エンストもしないしブレーキをかけてもガクンとしないのである。すごいなあ。
 「大阪、どう」
 「うん、みんな関西弁じゃな、あれはおかしい」
 「ふーん。音楽はなんか聞くか」
 「おれは最近なあ、なんか暗いの聞いとるな、ジャニス・ジョプリンとか四人囃子とか」
 「ああー。おれはドクター・フィールグッドとか聞く」
 「へえー」

 カーステレオからは、例のドキュメンタリー映画のサントラであるライブ盤が流れ、ジョンやポールがシャウトしている。

 「あ、ねえねえ」高塚が言った。
 「うん」
 「ここ聞いとけよ」
 『しぇきなぁ、べいべえなーう、しぇきなべいべー、ついっすあんしゃーう、ついっすあーんしゃー』
 「『ツイスト・アンド・シャウト』か」
 「いやこれって、さ」
 『あーあーあーあーあーー』
 「ここのハモるとこ、こんなにあったかいね?」
 「え、これはあるじゃろ」
 「いや、なんか途中くらいじゃない? なんかやたらこれある気がする」
 「どうじゃったっけ、えー」

 『あー』
 『あー』
 『あー』
 『あー』
 『あー』
 私たちはだいぶダメな感じで、映画館へひた走るのだった。


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