私は春に、広島から大阪へ越してきた。周りの人がみんな関西弁じゃけえ、うちはもう、どうしたらええか分からんよ――と最初は難儀だったがだんだん慣れて、同じ関西弁でも大阪と和歌山で明らかにちがう。大阪でも奈良よりの御仁と神戸よりの少女では意外なほどちがう。そういうことが分かってきた。エスカレーターでも右に立つ。大阪駅の出口も区別がつく。御堂筋口はあれで、連絡橋口は上のほうので、桜橋口が地味なやつである。あっ、近くにマクドナルドがあります。ほんとです。いや、たぶん。
私と同じジョン・レノンのファンの高塚は広島にいて、夏の帰省のとき久しぶりに彼と私は会った。ちょうどその夏公開された『エイト・デイズ・ア・ウィーク』というビートルズのドキュメンタリー映画を見に行くことに決め、私たちは待ち合わせるのだった。
「よう」
「おお、久しぶり」
私は彼の車に乗り込んだ。毎日乗っているらしく、最近免許を取ったばかりの私とは雲泥の差である。上手い。エンストもしないしブレーキをかけてもガクンとしないのである。すごいなあ。
「大阪、どう」
「うん、みんな関西弁じゃな、あれはおかしい」
「ふーん。音楽はなんか聞くか」
「おれは最近なあ、なんか暗いの聞いとるな、ジャニス・ジョプリンとか四人囃子とか」
「ああー。おれはドクター・フィールグッドとか聞く」
「へえー」
カーステレオからは、例のドキュメンタリー映画のサントラであるライブ盤が流れ、ジョンやポールがシャウトしている。
「あ、ねえねえ」高塚が言った。
「うん」
「ここ聞いとけよ」
『しぇきなぁ、べいべえなーう、しぇきなべいべー、ついっすあんしゃーう、ついっすあーんしゃー』
「『ツイスト・アンド・シャウト』か」
「いやこれって、さ」
『あーあーあーあーあーー』
「ここのハモるとこ、こんなにあったかいね?」
「え、これはあるじゃろ」
「いや、なんか途中くらいじゃない? なんかやたらこれある気がする」
「どうじゃったっけ、えー」
『あー』
『あー』
『あー』
『あー』
『あー』
私たちはだいぶダメな感じで、映画館へひた走るのだった。