ブレー(イ)ク
 「ぶれえく」という音を、カタカナで書けばブレーク、ブレイクと二つの表記がある。ブレエクとはあんまり書かないだろう。エービーシーならば「break」「brake」「blake」の三つである。いわゆる人気が出るのブレークは「break」を用い、「brake」はどちらかと言えばブレーキのほう、「blake」はブレークで、これは人名としての使用がメインらしい。
 いっそのこと、ブレークとブレイクでちがう綴りなら納得も行くが、上記のようにどちらとも「break」になるから複雑である。さらに朝食を思い出してほしい。二日前の夕食は思い出せない。「breakfast」、これは「break」と綴ってあるから「ブレークファスト」もしくは、「ブレイクファスト」となりそうなものの、実際は「ブレックファスト」と書かれることも多い。そのうえに「ファスト」を「ファースト」と書くことさえ珍しくなく、こうなると「ブレークファスト」「ブレイクファスト」「ブレックファスト」「ブレークファースト」「ブレイクファースト」「ブレックファースト」の表記が見られ、なんだかもう、ブレるのであった。この場合は「breru」である。
 「ギョエテとは おれのことかと ゲーテ言い」という川柳がある。「Goethe」はかつて「ギョエテ」と表記されることがあり、その原音との外れを笑いに変えたものだろう。なにしろ 「break」すら二つになる日本だから、人名かつドイツ人の「Goethe」さんがこうなったのも無理はない。私もきっと「ゴエッゼ」あたりに読んでいた自信がある。「代官山ファッションビル ゴエッゼ」など、ありそうであるし。今風にすれば「コエルゼ」(日本に古くからある「超える」「越える」「恋える」といった響きに、みなさまの「コエ」を聞く、のイメージを加えた新しいネーミングです)だろうか。ハルカス、ソラマチ、コエルゼ、商業ビルの名前にも、いろいろあるのじゃね。
 博士になってしまったが、とにかく、表記はさまざまになる。日本語と外国語はそもそも発声が異なるわけで、ぴったり同じ音をカタカナで表記すること自体が難しい。しかし考えれば日本語でさえ、われわれは同じ「あ」を見て同じ「あ」と発音しているようで、東京と大阪の「あ」はちがう気がする。また、「あしか」と「あたし」でもやっぱりその「あ」はちがうのでないか。また「ああ」と「あー」もちがうようだし、いよいよ分からなくなるし、そのうえ「嗚呼」もあるし、噫無情ではあがた森魚だし、あがた森魚は酔いどれ警官だし、センチメンタル通りは蒲田にある。

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