私がジョンの作品に触れたのは非公式の廉価盤からだった。洋楽でも聴くか、と中古屋で五百円のそれを手に取ったのである。歌詞カードなどもちろんない。ジャケットには風景写真だけが見える。アメリカのようだ。それになぜかスーパーマーケットの看板である。今思うとどこがビートルズか、であるが当時はあまり気にならなかったのである。
家に帰ってプレーヤーにかけた。一曲目は「ノルウェーの森」。有名なシタールのイントロがかかり、寝転がって聞いていた私は飛び起きた。「名曲じゃないか」。そこに二曲目の「ひとりぼっちのあいつ」。ジョンとポール、そしてジョージが合わせる歌いだし。私はショックに呆然として、ただただ胡坐を組むばかりであった。
その後も「ヘルプ」「ハロー・グッドバイ」「イン・マン・ライフ」と名曲ばかりが続いた。「悲しみはぶっとばせ」はこんな曲名で良いわけがないと思ったのに、これもまたジョンのボーカルが沁みてくるのである。
果たしてビートルズの虜となった私は、早速学校で友人の高塚にこのCDを貸しに行った。
「なあなあ、これ、すげえいいから」
売人風である。
「ビートルズねえ――」
「まじでいいって、絶対聞けよ」
と、ためらう高塚に私は無理やり貸し付けた。さて翌日。
「いい!」
「だろ!」
お互い中学生にもなって、阿呆のような会話であったが、まあ単純だったのだ。もっともこの前高塚に会ったとき「ジョン・レノンていいよな」などと言っていたので「だった」というのは間違いかもしれないが。
さておき、私はビートルズについてもっと知りたい、と思い始めた。オリジナルアルバムをまず聞き込み、関連書籍やジョンレノンの詩集、楽譜からインタビューにまで手を出した。ポール・マッカートニーの歌詞集も買った。これは失敗の気がした。
まあそうやって得た知識を私は当時高塚に披露していったものである。
・リンゴはリング(指輪)から来ている
・「ア・ハード・デイズ・ナイト」の名付け親はリンゴ
・「エイト・デイズ・ア・ウィーク」もリンゴ
・リンゴのサード・アルバム「リンゴ」
リンゴばかりであるが、もちろん他の話もした。そのとき高塚は言った。
「それよりブルーハーツ知っとる」
「」
「ほんま格好いいけえ」
「」
私は呆然としていた。胡坐は組まなかったが。