彼方の古本屋
 昨年訪れた古本屋を調べてみると、どうやら四十店舗かどうか、というところだった。チェーン店がそのほとんどを占めてはいるが、それでもまあ行っているほうだと思う(あくまで普通の人に比べれば、ということで「古書ファン」からすると全然であるが)。
 二回や三回通った店も多いから、訪ねた店舗数、ではなく、訪ねた回数、とすると百を越えても、おかしくない。もはや私の一年には、日曜日より古本屋に行った日が多い。どうだ。どうだってことはない。

 そんな生活をしていると、夢に古本屋が現れることがある。たいてい、それは棚に挟まれた位置である。私はその間の通路に立って、漫画を眺めている。そこに「なにか」がある。タイトルは忘れてしまうのだが、とにかく探している漫画があるのだ。私は喜んで手にとりレジへ持っていく――目が覚める。

 悔しい。せっかくなのでもう一度寝ようとするが、うまくいかないのだった。

 ともあれ、それが「夢の古本屋」である。ついでに、「幻想の古本屋」の話もしよう。生活中、ふととある古本屋の姿が頭に浮かび、しかしその店が存在するのか、しないのかがわからない、これが「幻想の古本屋」である。

 頭へ浮かぶくらいだから、行った店なのかもしれない。いやいや、「夢の古本屋」で見た店を思い出しているだけではないか。謎なのである。例えばそれは、こんな風景だった。

 「ショーケースに、漫画の生原稿が入っている」

 三年以上前には、もう頭へ浮かんでいた。もっとも、ショーケースとなると、置いている店は限られるし、なんとなくどこかの「まんだらけ」か専門店ではないか、と思うものの、依然正体不明のままである。

 想像ではあるが、いつか、ある古本屋に初めて行ったとき、そこに、ふっとこの景色があるのではないだろうか。あの幻想は、これのことだったのか、とそのとき私は思うのだ。
 夢であれ、幻想であれ、彼方に古本屋は存在している。


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