地震雲


 進はひかりと一緒に、理科室の掃除をしていた。遠くで正午のチャイムが鳴っている。

 ひかりが窓を開けて空気を入れ替えたとき、がらりと教室のドアが開いた。ひかりが振り返った。進もそうした。開いたドアから俊一が顔を出す。外を示している。

 「どうしたんだよ」と進は聞いた。
 「外見ろよ、外!」

 言われて進は教室を出、外を見た。ひかりも駆け寄ってきて、ちょうど進の横へ立ち、俊一も含め三人は空を見上げた。
 そこには、大きな雲があった。夏の雲は漫然とグラウンドの先、学校のネットを抜け、団地すら飛び越えて、山に被って浮かんでいた。

 「ただの雲じゃん」と進は言った。
 「いや、よく見ろよ、地震雲だぜ」

 驚いて進は改めて雲を眺めたが、そもそも地震雲がなにか分からないのだった。

 「どこが地震雲なの」とひかりが首を傾げた。俊一があれが帯状で、そこが色彩異常で、と説明した。ひかりは相変わらず要領を得ない顔をしている。進も同じ状態だった。
 俊一はさらにむきになり、説明に熱を入れた。指を差し大声で叫ぶ。ひかりはそれでもよく分かっていない。地震と雲がどう繋がるのか、ひかりはそこから分かっていないようなのだった。

 進は一人教室へ戻り、中を見渡した。古ぼけてほこりの積もった棚。濁ったシャーレ。幾冊もの自然科学の本。
 また、教室の外へ首を向けた。まだ会話が続いている。急に、蝉の声が鳴る。進はもう何度目か分からない箒をかけた。そのとき、小さく床が揺れたような気がしたのだった。


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