長い道


 桜が咲いている。校舎には垂れ幕がかかっているが、別段式に関することではない。単に学校名だけが書かれている。空は曇ってしまっている。
 安雄が小さな紙包みを持って、走ってきた。中からカメラを取り出す。

「それで」
「記念に撮ろうと思って、撮らない」

 克文と顔を見合わす。なんとなく、恥ずかしいような気持ちがした。が、安雄はカメラに手をかけて、まるっきりもう、撮るつもりだ。仕方なく階段の前へと並ぶ。古い階段のせいか、角が取れかかっている。
 安雄がシャッターを切る。その真剣さを笑って、克文と二人、下を向いてしまう。風が静かに吹く。

「あれっ、指が入った」
「えっ」

 克文が駆け寄っていく。同じようにして駆け寄って、肩越しに覗き込むと、肌色が上部を覆った二人の姿が、階段をバックに映っているのが、液晶画面に見えた。

「これでいいよ」と言った。
「そんなことないだろ、だって指」

 安雄が応えたが、克文も「顔に被ってないからいいじゃん」と言った。「そこに別に、隠れて困るものがあるわけでもないしさ」と続けた。
 振り返って、その場所を見た。ちょうどあたりに、忍が、緑色のフェンスにもたれて、遠くを見ていた。安雄は、「まあいいけどさ、そういえばおれは、どう写ればいいんだ」と言う。克文がなにか、答えている。

 今度は、忍が見ていたほうを想像し、向き直って見てみる。なにもないような景色が、続いている。


創作に戻る     トップページに戻る

  
       
inserted by FC2 system