図書館 公民館の2階が図書館だった。ぼくはそこへ行くことにした。返す本があったせいだ。それに妹も着いてきた。妹は借りたい本があるという。 公民館の2階へ続く階段の壁に、小学生の描いた絵が貼ってあった。この公民館でやっている「こども絵画教室」の作品のようだ。 「おにいちゃん、このテーブル、天板は上から見て、脚は横から見て描いてあるわ」 その中の、1枚の絵に目がとまった。鯉のぼりの鯉を1匹描いた絵だった。鯉の絵は全部で14枚あったが、その鯉だけ右を向いているのだ。 「おにいちゃん、14枚の鯉があるわ」 ぼくは例の右を向いた鯉を指さした。 「変?」 ぼくはそこまで来て、特に話すことがないのに気づいた。それで階段を2段飛ばしに上って、左へ曲がって図書館に入った。ぼくと妹は入り口で分かれ、妹は本を探し、ぼくは本を返すことにした。 本を返して、それから「げいじゅつ」(これはこども向けの芸術だから「げいじゅつ」なのだ)、「じどうぶんがく」「自然科学」の順番に本棚を見てまわった。「自然科学」の棚にあった、「なるほど分かる生物学」という本を手に取ったが、ちっとも分からなかったので戻した。 そこへ妹がやってきた。 「どうしたんだい」 妹がそう言って見せたのは「決定版クッキーの作り方」だった。 「おまえ、『暫定版クッキーの作り方』は読んだことあるのかい」 ぼくはなにも借りないのもつまらないので、「ひこうきのしくみ」を選び、それを借りて帰ることにした。 帰り道ぼくたちはまた例の階段を通ることになった。妹は「決定版」を読みながら階段を降りたので、こけそうになった。ぼくは並んだ鯉を見ていた。 「ん?」 ぼくたちは増えたであろう1匹の鯉を探した。そしてそれは見つからなかった。どの鯉も一度見たことがあるようで、ないようだった。右を向いたあの鯉以外は、みんな似ていて区別がつかない。 「向きが違うのがあの鯉の『アイデンティティ』だったのね」と妹が言った。 そして、入り口だった出口から公民館を去った。外は薄暗くなって、風もなんだか冷たい気がした。 |
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