万引きのすすめ
万引きとはなんだ


 万引きをしよう。

 まず必要なのは店だ。今回は我が家の近くのスーパー「カエルヤ」を選択する。

 次に必要なのは盗む物だ。今回はカエルヤの「特売! 1050円財布!」を選択した。この特売財布コーナーに風水で選ぶ財布の色!とかいう紙が置いてあって、ゴールド・お金を呼び込む効果がある。茶色・お金を溜め込む効果がある。とかはまあ許せるけれど、黄色・ゴールドと似た色なので似た効果があるってのは何なんだろうか。ならゴールド買えよ、というか。うさんくさいのである。

 服装を用意しなければならない。当初用意していたショッキングピンクに白の綿パンツという組み合わせが失敗であるのは即座に理解できた。目立たないのが万引きには一番だ。そう思って、白色の服を選んだ。ところがその宇宙服はどうやら万引きには向いていないようだった。動きやすいのが万引きには一番だ。次に用意した下着シャツに白ブリーフという組み合わせには問題があった。動きやすいが、これでは目立ってしまうではないか。私は白色のユニクロTシャツに紺のジーンズという平凡なスタイルを最終的に選択した。

 かばんも用意しなくてはならない。盗んだ品物を素手に持ち歩くのは間抜けの行動である。英知の極みである私はかばんの用意をおこたらなかった。しかし、用意したカバはどうやらかばんでは無いらしい。カバではなく、かばんがいる。二時間後にそう気づいた。すぐさまショッキングピンクのかばんを用意する。いや待て、目立っては意味が無いのだ。というか何でこんなにショッキングピンクの物が家にある。仕方なく黒い肩掛けかばんを選択した。無難こそ命だ。

 私はカエルヤに向かう為、玄関へ向かった。そしてかんじきの付いたワラジに履き替えた。10メートル程歩いた後、おかしいと思い直して家に帰り、ゴム長靴に変更したが、これもおかしい予感がしたのでただのスニーカーに取り替えた。

 万全である。私はカエルヤの前に今立った。ふとガラスに映る自分が全身ショッキングピンクに塗られているのに気づいた。何だこれは。私は仕方なく家にまた戻り、上から肌色を塗って事無きを得た。

 さてついにカエルヤの中に私は潜入する。ここで必要なのは万引きGメンの発見である。私は怪しい動きをするオバサンを発見した。彼女に間違いない。

 「あなた、万引きGメンですか」
 「はい、そうですけど」
 「私これから万引きするので、見ないで下さい」
 「ええ分かりました」

 皆さんがもし万引きをするならば、こういった適切な行動を取ってもらいたいものだ。

 やがて財布売り場に到着した。おかしい。1050円の財布コーナーが無い。何たることか。私はサービスセンターまで出向き、店員に問いかけた。

 「1050円でやってた財布特売はどうなったんですか」
 「申し訳ありません、昨日売り切れまして、販売が終了いたしました」
 「ええ! どうしろというんだ!」
 「通常の財布コーナーでお求めになってはいかがでしょう」

 仕方ない。そうするしかないようだ。店員に礼を言って通常の財布コーナーに出向いた私は、選別を重ねた結果ショッキングピンクの財布、2300円をかばんに滑り込ませる事に成功した。

 万引きなど簡単な物である。これも皆、事前の準備の結晶と呼べるだろう。

 私はカエルヤを後にした。と、お客さん会計を済ませてませんよ! と声がする。会計を忘れるとは。最後の最後で初歩的なミスを犯してしまったらしい。

 赤面しつつもきちんとお会計をし、代金を払うまでが万引きとの教えに思いを馳せつつ私は家に帰ったのだった。


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