象探し


 象を探しに行こう、と言い出したのは河田だった。本気の顔をした。仕方がないのでぼくは地図帳で動物園を探し、それを指し示したが河田は、笑った。

 「なんだよ」とぼくは言った。「そうじゃないんだよ」と河田は言った。
 「そうじゃないってなんだよ」
 「本当の象を探しにいくんだよ」
 「本当の象」
 「本当の象さ」
 「それってなんだい」
 「看板だよ」

 河田は同じ調子で、続けた。

 「世の中にはいろんな看板があるだろう。例えばゼブラペンの看板にはシマウマが描いてあるし、近所のクリーニング屋には熊の絵が描いてある。そんな風に、象を探さなければいけないんだよ」

 ぼくはやっと河田の言いたいことがわかった気がしたが、それは本当の象でなくて、看板の象だと思う。けれど訂正するのも煩わしいから、とりあえず出かけることにした。

 「それなら私も行くしかないでしょうね」とぼくの妹が言ったので、妹も一緒に来た。

 「で、どこに行くの」と河田に聞くと、「とりあえず団地を出て、国道沿いに歩いていくのがいいんじゃないか」と答えた。「国道沿いは危ないし、第一何度か通ったことがあるけど、象はいないぜ」「そうかな」「うん。ハローマックのライオンはいるけど」「ライオンは象じゃないからなあ」「アイスクリームを食べましょうよ」と妹が言ったので、ぼくらはまずアイスクリーム屋に向かった。

 お金を出し合って、河田に買ってくるよう頼むと、彼はバニラを三つ買って出てきた。ぼくと妹はどうしようもないような気持ちになった。

 「とりあえずこっちに来たんだから、道なりに商店街へ行こう」と河田が言った。みんな賛成する。

 商店街に看板は多い。もっとも、ほとんどは字が書いてあるだけだ。絵のついたものも、店主の似顔絵がほとんどになっている。動物は少なかった。

 「ねえ、これ象じゃない」と妹が言った。
 「これはリスだよ」とぼくは言った。

 「ねえ、これはどうだ」と河田が言った。
 「これはワオキツネザルだよ」とぼくは言った。

 しばらく歩くうち、バス停に行き当たった。商店街のアーケードも、もうない。ふとバス停の時刻表示を眺めると、「動物園行き」というのがあった。時間も近い。

 「ねえ、これで動物園に行けそうだよ」「だから動物園に行くつもりはないんだけどなあ」「違うよ、それは動物園には象もいるけどさ、案内表示には象の看板があるんじゃないか」「それはいい」

 河田がみるみるうちに笑顔になるのでぼくも笑ってしまった。人はこういう風に笑顔になるのだろうか。早速ぼくらはバス代を数えた。が、驚くことに持っているお金では足りない。アイスクリームを買ったせいだ。

 妹は「あのバス、廃線になってるんじゃない」と言った。遠くからバスがやってきた。ぼくらは今来た商店街へ向き直って、その先の家へと帰っていった。


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