部屋


 部屋は散らかっていた。あまりに散らかっているので、つい、目をつぶりたくもなったが、そうすると確実になにか踏んでしまうから、足を工夫するほかに方法もないのだった。

 これほど汚くなってしまったのは、一昨日のことだ。それまで保たれていた均衡が、ぽんと置いた一冊の本でみんな崩れて駄目になってしまった。そういうことは、紙束を重ねてきた以上いつかは起こりうることであったが、やはり起これば問題だった。それは紙を片付けるためには、一枚ずつ拾っていかなければならないということで、想像しただけで、まいる。

 衣服ならばまとめて掴んで洗濯かごへ放り込めばいい。CDや本は一枚ずつなのは同じだが、いくらか愛着がある分、ましだ。食料品で散らかっているのなら、片付けを先に延ばすことはない。
 それらに引き替えて、紙をどうすればいいのだろう。それも、例えば、図書館の借りた本と返却日の一覧表、あるいは自分以外の家族へ送られた葉書、そして住所録だったりする、捨てにくい紙たちを。

 中でもいやな思いがしたのは、期限の切れたクーポン券で、「これは切れているから、捨てやすいですよね」と考えてみても、余計に腹が立つようで、交差点まで飛び出したくなるようで、もう、駄目だった。

 それでも片付けるよりほかにない。エントロピーの増大した部屋で、私は、片を付けるのは、もっと多くのものに対するべきだとも考えた。しかしそうするには、まず、部屋をなんとかしなければならなかった。

 そうして私は、紙を、一枚ずつ拾っていく。


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