かけそば


 かけそばを家で食べていた文子は、感動を貰った。それは「不良が捨て犬に傘をさす」の包装紙に包まれていた。まことに感動である。しかし、文子は別段、感動など好きではなかった。

 だから興味も無かったのだが、「ちょっとした勇気が道を開いてくれた」のリボンが目についた。それで、文子は中に何が入っているのか確かめる事にしたのだった。

 当初、「日本一短い手紙」なんかが入っているのだろうと文子は思っていた。しかし開けてみれば、中身はプラスチックで出来たわけのわからない部品である。何だろうこれは。片づけをした時、変な部品が出てくる事がある。何かに使えるはずだから下手に捨てられない。そういう物のように見えた。

 しかし考えてみればそれは不用である。取っておいても使う時など来ない。何故そんなありふれたものが感動なのか。文子はすっかり困惑してしまった。と、部品の裏に、小さな文字が彫りつけてある。

 「飾らない、おばあちゃんの詩集」。短くそうあった。

 そういう事か。でも、考えてみればそれはやっぱり不要だ。文子は仕方ないので、すっかり伸びてしまったかけそばをまた食べ始めた。「感動を、ありがとう」もなにもないものである。

 机の上に置きっぱなしだった感動からは「知られざる努力」がちらりと見える。見えてしまえば、くず籠にいれるより他ない感動を文子は噛みしめた。いや、噛みしめたのはかけそばであった。


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