鉄板は硬い
  鉄板は硬い。それが「堅い」に転じて、このレースの勝ちは堅い、このギャグの受けは堅い、ここのお会計が割り勘になるのは堅いといったものを「鉄板」と呼ぶようになった。鉄板のレース、鉄板のギャグ、鉄板の折半である。
  インターネツトで見つけた鉄板の由来を紹介したが、気づかされたのは「確実であるなら(堅い、と言えるなら)、ギャンブルやお笑い以外の場面でも『鉄板』は使える言葉である」ということだった。言われてみれば「鉄板ベストソング」とか「鉄板の観光地」とかいった使われ方を見たことがあるように思う。鉄板の可能性は広い。

 先の見えない時代と言われるが、私には確実なものがあって、それは、よく行く食堂にまつわる現象なのだった。私がそこでうどんやそばを注文すると、驚くことに、確実に、堅く、まさに鉄板の確率で、うどんにはそばが混ざっているのである。そばにはうどんが混ざっているのである。そばやうどんが混ざっていなかった場合は、ラーメンが混ざっている。

 だからといってなにか困るわけではないのだが、やはり変な気分になるし、最近は小ライスばかり頼んでいたところ、ついこの前、新しい麺メニューが登場したのを見つけた。冷たいうどんで、今の季節にマッチした新作である。わけもなく頼んで、食べはじめる。やはりそばが混ざっていた。食堂のうしろの席では、お客の一人が日本シリーズの昔話をしている。彼にとっての鉄板トークなのだろうか、話慣れている雰囲気がする。聞く方のリアクションは小さいのか、私の耳には聞こえてこない。

 「硬い」が転じて生まれた言葉だとすれば、「鉄板」は「鉄骨」でも「合金」でも「ダイヤモンド」でも良いことになる。彼にとってのダイヤモンドトークと言うなら、真実野球らしい物語である。


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