動物園
 「どうぶつえんへいこう」という曲がある。どことなく、「さよなら人類」と近いものを覚えるタイトルではあるが、可愛い童謡である。ただ気になるのは、「いこう」である。行きたいだろうか、動物園へ。もっと誘い方というものが、きっとあるはずだと私は思うのである。
「あの、ええっと、見ない、象」

 「動物園」というのは、変わった場所である。本来、ニホンザルとベンガルトラは近くにいるはずがない生物なのに、いる。目の前にライオンがいたら逃げなければいけないのに、「寝てばっかりだよ」と微笑んだりしている。ジャングルなら死んでいるところである。
 私は今でこそインドア派であるが、小学生のころもインドア派であった。それでも動物園には行った。私が特に好きだったのは「は虫類館」といったような、薄暗い建物であった。

 そこにはヘビや、カメや、職員の方がいた。あと水槽や柱、建物、壁、空気、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素、ネオン、もういいか、いろいろあったのである。「動物園」らしさ、とは少しちがう場所の気もしたが、大したことではない。そんなことを言うなら、私が動物園のお土産売り場で買った恐竜のおもちゃはどうなるのか。絶滅しているのである。

 ところで、「動物園」と言えば、「動物園の動物は、反対に、人間を観察しているのかもしれないよ」というネタがある。発想の逆転を扱ったネタで、私はいつも、キリンなどが「ひまなやつらだ」と吹き出しの中で考えている絵を思い浮かべる。
 一番最初に発表されたときは、たいそう面白いネタだったにちがいないが、幾度か見た私には食傷気味の感さえ出てきた。しかし風刺的な目をして、もくもくと吹き出すキリン。こういった、イメージを浮かべると、やはり好きなネタとは言える。動物園と吹き出しは、私の中で密接に関係しているのだ。

 しかし現実の動物園へ行っても、キリンはいるが吹き出しはいない。はるか吹き出し園を求めて、また前へ歩くのである。


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