読書を疑え
 小学生のころ私は本を乱読していた。正確に言えばそれは日本の小学校五年生のころであり、つまり、広島県の小学校五年生のころである。これ以上言うと、フェイスブックにお友達を紹介されるのでやめてしまうが、そのころの読書記録、学校に提出したこの記録をひとつご覧いただきたい。

『チョコレート工場の秘密』 とっても、変わっていておもしろい!!
『魔女がいっぱい』 前のと同じくらい変わっている。

 「前のと同じくらい」とはひどいものであるが、こうした記録が何ページにもわたって続き、読んだ冊数は一五〇冊を越えている。近頃もサイトに「読書記録」をつけているものの、なかなかこのペースには及ばない。

『こちらゆかいな窓ふき会社』 とてもゆかいでした。

 情報量の少なさである。『坊っちゃん』を読んで、「とても坊っちゃんでした」と書いているのと変わらないではないか。少し前の『アンネ・フランク物語』のときは「アンネは収容所に入れられてもきぼうをすてなかったのですごい」と書いていたのに、きぼうもなにもないのである。
 そういった記録は、やがて暗転した。クラスの岩中[仮名]が言ったのだ。
「おれ、百冊越えたわ」(にっこり)
 まだ百冊が遠かった私を、大きく挑発したのである。

 そこで読書量を増やして見返してやると決心した。が、それまでも悪くないペースで読んでいたために、なかなか数字が伸びない。苦肉の策が、昔読んだ本も(読んだことには違いないので)リストに記録しよう、という振り返り作戦であった。四年生のころに読んだ星新一、園児のころ読んだ絵本がマス目を埋めていく。本棚から幼児向け「こどものとも」を抜き出すこともあった。もちろんそういった具合であるから、感想もますますやっつけ仕事化するのであった。

『村のくらし 昔と今』 よく分かる。
『ようこそ地球さん』 いつみてもあきないおもしろさ
『安全のカード』 安全を保証するカードは!?

 カードは!? じゃないだろう。なにを驚いているんだ。岩中も後半は私と似たようなことをやっていたが、そのうち勝負はうやむやに終わった。私たちは六年生に進学していたし、勝負は意味を失ってしまったのだ。
 そんなリストを今読み返していると、最後に「鋼鉄都市」が載っていた。アイザック・アシモフの名作SFである。感想は「古い作品だけど、おもしろかった」。そして驚くことに、私は数日前ちょうど同じ本を図書館で借りていたのである。まるで五年生の自分と、今の自分が一瞬重なったような気がした。
 私はもう一度、書くのかもしれない。「鋼鉄都市は!?」


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