箱の力
 数年前、ある「おもちゃ」にはまっていた。それ自体は楽しかったが問題は「外箱」だった。おもちゃには必ず外箱が付いてくる。おもちゃを買えば買うほど、箱も溜まっていく。この体積が馬鹿にならず、しかし愛着もあって捨てがたい。つぶして薄くしたり、大きい箱の中に小さい箱を入れたり、とにかく重ねてみたりしたが、結果的には、崩れてきたりして、いくつかは捨てざるを得なかった。

 そんなとき、インターネットを使えば、箱の写真を掲載しているサイトがあるのではないか、と私は思い立った。現物がなくても、ネットで写真を見れば、少しは心が落ち着くかもしれない。そうして調べ出すうち、私はおもちゃのより深い世界を知ることになった。
 例えば、三十代の男性が作っていたサイトである。そのおもちゃについてはもちろん、プラモデルや自身の子供の話などが綴られてい、写真も多く、文章も明解で、素敵なページを見つけたものだとそのときは思った。

 頻繁にアクセスしていたある日、異変が起きた。こんな表示が現れたのだ。
「注目情報!」

 注目すると、アマゾンでの「おもちゃ・プラモデル」のセールについて、広告付きで記されていた。いわゆる「アフィリエイト」であり、本でも参考にしたのか、妙に親しげな、語りかける口調で書かれている。「ですよ」の「よ」が奇妙な違和感を生んでいた。

 そしてそれから、「情報!」は増えていく一方だった。量は片隅の二三行から、大きな専用コーナーへと変わり、あちこちに、「安い」「おすすめ商品」「私もいつもここで買っています」という文章が並んだ。もともとあったおもちゃ、プラモデルのレビュー記事はめっきりと更新が途絶え、それらの記事の最終更新日から一年が過ぎるころ、私はそのサイトを見るのをやめてしまった。

 先日、ふとそのサイトを再訪した。くるくると読み込み中画面が動き、気がつくと、別のサイトが現れている。驚いたが、どうやら閉鎖して、ドメインが取られたらしい。そこにはもう、プラモデルも、子供の姿も、なにもない。無機質な画面だけが広がっていた。

 そのときは、少し寂しくなっただけであったが、同じおもちゃを扱った、あのころ見ていたサイトたちが、いくつも似たように「アフィリエイトにハマり、いずれ閉鎖(放置)」の道を辿っているのを発見したときは流石に驚いた。これはどうしたことだろう。大人になって、おもちゃにはまっている人間には、そういう子供っぽいところがあるものなのか。一人は二年前の記事にこう残したままである。
「通販情報」
「セール品情報」

 情報の力が、そこにあった。


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