犬頼み
 「犬の手も人の手にしたい」という諺がある。忙しく焦ったときに使うものだが、「犬の手」まで持ち出すくらいだからよほど焦っているに違いない。もしくは、犬以外に、手伝ってくれる人がいないのだ。友達がいぬのは孤ドッグである。

 さておき「犬の手も人の手にしたい」はすごい。「猫の手も借りたい」にあった「すんません、手、貸してください」という優しさはここにはもうなく、あるのは「お前も蝋人形にしてやろうか」という高笑いばかりである。それに犬なら手でなくて、脚である。

 そのような問題をはらむ「犬の手も人の手にしたい」を私は改善したいと思う。

 『犬の手も借りたい』
 安直だ。猫と取り替えれば済むわけではない。「犬の額」か。「犬に小判」か。「ビクターの犬」というのもあるが、これは関係ない。
 『犬は、働けません』
 正しいものが良いとも限らないのだった。
 『お願いだ、お願いだから働いて、犬』
 『わんわん。わんわんわん。あうっ。わん。わふー』

 どうやら、どれも成功とは言いがたい。「犬」自体に無理があったのかもしれない。

 「猫の手も借りたい」がとぼけながらも、忙しさを表現し得ているのは、猫が働かない動物だからである。普段働かない猫にさえ、手伝って欲しい。それほど切羽詰まってますよ、という、そこがいいのだ。

 一方で、犬は元来働き者である。そんなやつに手伝ってくれ、と言ったところで、食中毒に自衛隊がやってきたような場違い感こそあれど、切羽詰まった感じは出ない。それが問題であった。ドッグ・ザ・クエスチョン。

 しかしそうなると『「犬の手も人の手に」を改良』という今回の出発点からして無理であったか。失敗は当然だ。ここは申し訳ないが、「猿も木から落ちる」と思ってひとつ勘弁していただきたい。

 いや、それも駄目か。なにしろ犬猿の仲だから。


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