神様
 家に新興宗教がやってきた。具体的な名前こそ出さないが、輸血、というやつである。やってきたのはおばさんと、若い娘さん(それこそ娘なのかもしれない)だった。開口一番おばさんが言った。
 「聖書に興味はありますか」「聖書になにが書いてあるか知ってる?」「聖書の教えが聖書にバイブル」。私は興味がなかった。聖書にもないし、おばさんの軽妙トークにもない。若い娘さんは、私をぼーっと見ているだけ。おじぎ草のようにうつむいて、私は「はー」とか「あー」とか言っていたのである。

 やがておばさんたちは、「はー」「あー」に嫌気がさしたらしく、聖書を渡して去っていった。もしかしたら「はー」「あー」が「ハア!」的な破邪の力を持っていたのかもしれないが、おそらくそうではない。渡された聖書は少し読んだものの、ちっとも興味をひかれない。その後もおばさんはきたけれど、無視することに決めた。悪い気もしたが、どうせ私は入信しないし、構わないだろう。そう思っていたところに、またピンポンである。

 今度はなんだ。インターホンを見ると、別のおばさんが映っている。回覧板や町内会で普通のおばさんもたまに我が家を訪れるので、それかもしれない。彼女たちを無視すれば「あそこの息子さん、ひきこもりですって」「いい年して、天才テレビくん見てるのよ」「漫画を大量に集めているらしいわ」などと事実無根を言いふらされかねない。いや、事実無根かどうかは疑問だが、ともあれ普通のおばさんなら、出なければ。
 ガチャリ「あなた、チャンチャーリャーユーチャさん、信じる?」「へ」「チャンチャーリャーユーチャさん」。そう言われても。おばさんはノートを取り出すと、「ここに、チャンチャーリャーユーチャ様の名前を書くとね、願いが叶うのよ」と言う。見れば、チャンチャーリャーユーチャは神の名前だったようで、それを書くことによってなにかが起こる、系のものらしい。

 それはどうでもいいが、そのノートは気になった。ネタになりそうだ。私の物欲し気な目に気づいたのか、おばさんが言った。
 「1260円」。

 売るのか。そんな金はない。「おかねないの」攻撃の末、おばさんは「こいつアホや」と私を見つめ、チラシを渡して帰っていった。チラシには「千年王国の救世主」などと、延々書いてあった。そのチラシを読みながら、私は「文法がおかしい」「句読点を打つべきだ」と暇をつぶした。

 しかし年度末は、勧誘が増えているな。

 昨日も公民館で見た。

 「自衛隊へ入ろう」


[前] [次] [雑文] [トップページに戻る]
inserted by FC2 system